第壱章/義勇軍

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どこに行ったとて苦しい立場に陥るでしょう。馬超殿がお強いのは彼の天性の才能もおありでしょうが、捨て身で以て進撃してくるのが主でありましょう。満身創痍のままでは彼も死んでしまいかねません。実に惜しいのです。」 劉備も燎嵩も諸葛亮の説明に同調する。 「しかし孔明、どうやって馬超殿を?」 静かに諸葛亮は言葉を続けた。 「馬超殿が身を寄せているのは漢中の張魯の下。あの男は兎にも角にも欲の深い男です。弟の張衛も然り。あの男は漢寧王の称号を兼ねてより欲しておりましたから、私が楊松に賄賂を渡し天子様に漢寧王にして頂くようにと働きかけましょうと持ちかけた次第です。そしてその代わり馬超殿に霞萌関から撤退して頂きたいと。」 諸葛亮は先ず劉備張魯の事について語った。 そして張魯は馬超にはあまり固執いや、単なる兵士としか思っていないと踏んで、ある一計を遂行していた。既に馬超を取り込む作戦は始まっていたのだ。 「交渉がまとまり、今漢中の方は方針が一変しているはずです。馬超殿には漢中より即刻撤退命令が下っているはずかと。」 劉備は額に汗が滲む。 我が軍の軍師ながら何と念密に策を講じるのかと今更ながら驚き入った。しかし劉備は燎嵩の反応に疑問を持つ。 諸葛亮の策謀に驚きすらないのだ。 普通なら表情に態度に何らかの形で出るだろうが燎嵩は別段変わらない。 劉備の疑問をよそに諸葛亮は話を続けた。 「問題が生じてしまいました。」 その言葉に劉備は再び諸葛亮に向き直る。 「馬超殿が漢中の命令を承諾せず攻めているのが現状です。」 溜め息をはく。 再三撤退要請は漢中から馬超の下に来ているハズ。何故か止めないのだ。 「義理を通そうとなさっておられるのではありませんか?」 黙っていた燎嵩が口を開いた。 「義理?馬超殿が張魯殿にか?」 劉備の問いに頷く。 「元は劉璋が張魯に援軍を求めたのが発端です。劉璋には無くとも張魯は馬超様を曹操から匿った経緯があります。出陣のおり、何事かを約束なさってきたのではないでしょうか?それを果たさないまでは撤退なさらないのではないでしょうか?」 諸葛亮はその言葉に納得した。 「なる程、殿、我が軍で言えば髭殿と同じかと。」 髭殿=関羽の事である。 「なる程。それならば融通は利かぬな。困ったものだ。」 劉備は苦笑していた。 劉備も関羽の性格や人格を知っている。同じだと言われれば納得できる。バタバタと走る慌ただしい音が向かってきた。
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