第壱章/義勇軍

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言わないにしても、気持ちに何か釈然としない思いが生まれていた。 自分が孟達に関われば間違いなく歴史に触れてしまう。 そうなれば解釈はおろか、正史そのものが変わってしまう可能性が出てくるのである。 今は、今は孟達は劉備軍に従事している。 しかし。 燎嵩は言いようのない歯がゆさを覚えた。 孟達の人影が小さく消えて行くまで燎嵩は彼を見ていた。 いきなりガシッと髪をグシャグシャにこねくり回された。 「!」 この感触、この大きさ、この力、この荒さ。 「ちょ~ひ~さ~ま~ぁ。」 「なんでぇ、孟達までカッコイいとか言うんじゃねぇだろ~な?」 ボサボサになった頭のまま張飛に反論した。 「んなわけ無いでしょ。俺には、その気はありません。」 「あんだ?その気って?」 首を傾げられた。 アホな事を言った自分が恥ずかしく思えた。 「…………。何でも無いです。」 プイッとそっぽをむいた。 「なんでぇ。変なやつ。」 廊下での2人の声が聞こえたのか劉備が出てきた。 「何だ、廊下が騒がしいと思ったら、やはりお前たちか。」 やれやれと言った感じで言われる。 「おう、兄者。」 「張飛、明日は綿竹に戻るぞ。ここは孟達とカク峻に任せる。燎嵩、君も綿竹に来て貰うよ、いいかな?」 「はい。行きます。」 素直に返事をする。 不思議な人だ。劉備とは人を安堵させる。だからだろうか素直になってしまう。 「良かった。なら少し休みなさい。」 ボサボサの髪を劉備は直してくれた。 「やれやれ張飛か?ボサボサにしてしまって。」 「だってよぅ触り心地いいぜ。ついつい触っちまうんだよ。」 ヘヘッと笑っていた。 悪気はないのは分かっている。 張飛の性格や気性を分かっていれば無いと分かる。 「お前は気持ちいいだろうが、燎嵩は違うだろう?」 劉備は無意識に燎嵩の頭を撫でていた。 「……………。」 ―言ってるそばから、劉備様よぅあんたもですかい。― 霞萌関には孟達とカク峻を残し、劉備率いる軍勢は綿竹を目指して移動が始まった。 燎嵩も歩兵と共に歩き綿竹へ進む。 度々張飛が燎嵩を気にかける。 何故か馬超も話しかけてきた。 「綿竹まではかなりの距離、大丈夫なのか?兵士と違い、体力がなさそうだ。」 ―馬超様、正解。ですがあなた方と一緒にされても困るなぁ。― 馬超に作り笑顔だがみせて微笑んだ。 「体力はさすがに保証ないですけど、綿竹まで頑張って歩きます。」 「しかし……。」 後ろから馬岱がくる。
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