第壱章/義勇軍

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使者が劉備に差し出した物があった。 「劉璋殿から劉備殿へ。印綬と文籍にございます。」 劉備は受け取り、使者に劉璋の事を聞く。 「劉璋殿にお会いしたい、劉璋殿との執り成しを頼みたいのだが。」 「いえ、遅れてこの後に参られましょう。劉備殿はそのままでお待ち下さいますように。」 訪れるとの事に劉備は驚いた。 「しかし……。」 「殿、参られると言うなら待ちましょう。丁重にお迎えすればよいのです。」 諸葛亮の言葉に使者も頷いた。 柱の影で、星飛馬の姉ちゃんの如くソッと見ていた燎嵩。 出るに出られない損な自分に涙がチョロっと出た。それ以外に劉備が悩み、苦しみ、決断した蜀攻めの無血降伏だった。 「涙が出ちゃう。だって感動しちゃったんだもん。」 グスッと目をこする。 「あ?どこいったかと思ったらこんなトコに居やがったのか、何泣いてんだ?」 張飛が燎嵩を覗き込んだ。 「だぁってぇ。蜀ぅ~。」 燎嵩の言いたい事が分かったのか、張飛が優しく燎嵩の頭を撫でる。 「やっと安住の地が得られたな。兄者には苦しかったんだ、戦にならずに手に入ったんだ。良かった良かった。」 燎嵩も頷く。 「おめぇが来てから幸運続きだぜ。さすが龍だな。」 ニカッと笑う。 つい流れで頷いてしまった。 「お、劉璋が来やがったようだぜ。」 燎嵩は張飛に龍ではないと言い直そうとしたら、タイミング悪く劉璋が来てしまった。 「なんで、こうみんな邪魔するんだろ。龍じゃないのにぃ。」 ガクッと肩を落とした。 劉璋は劉備に降伏が遅くなってしまった事を詫びた。 劉備はそんな劉璋を深くもてなした。 劉璋の謝罪に劉備の目には涙が見えた。 劉備は府堂に立ち、宣言した。 「蜀は本日を以て新たにこの劉備玄徳の統治下になり、今日、新たな始まりとなる。しかし、今までの日々が良いと言う者、一新に不平ある者は去るがいい。止めはしない。無理強いもしない。己が望む地へ行くとよい。」 階下にはズラーッと大将達と文官達が並び、劉備に異議なしを唱えた。 諸葛亮の目が細まる。 ―はて、黄権と劉巴の姿がありませんな。― 他の者達も二人の姿がないとざわめきだした。 「まさか、この期に及んで?」 「反骨ですか?往生際の悪い。」 そんな声もちらほら聞こえた。 「…………。」 劉備はそんな不穏で険悪な空気に胸を痛める。 諸葛亮と目を合わせ、諸葛亮は頷く。 「皆、静粛になされよ。」 劉備の一声にシーンとなる。
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