第壱章/義勇軍

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「黄権殿、劉巴殿に対して危害加えようと考えておるようなら、この劉備玄徳がその者を大罪に処する。納得いかぬ事がおありなのだろう、説いてお二方にも是非ともお力になって頂く所存。よろしいだろうか?」 そう言うと皆は深く礼をした。異議なしと。 圧巻だった。大衆にかしずかれるのはこんなに圧迫感があるものなのかと。 「なんで兄者に不満あんだよ!けっ。」 確かに身内ならそう思うのは当然だ。 張飛が悪態つく。 「今まで劉璋様に仕えていたんですから、やはり多少抵抗あると思いますよ?劉備様の事あまりご存知ないからだと。分かってくれれば大丈夫だと思うけど。」 「大丈夫って根拠どっから出てくんだよ。」 「人を知らねば、近寄り難く、近づき難く、教も興も無く。ってね。」 「は?」 「長年仕えた領主が代わるんです、不安感あるに決まってます。劉璋様にも多少なりとも忠義も。でも突然会ったこともない劉備様に仕える事になり多少抵抗感あって出席しなかったのでしょ?これからあの2人に会いに行かれるのでしょ?なら劉備様の人と成りを知る事ができますから大丈夫だと思ったんですよ。」 燎嵩の言葉の真意がやっと理解できた。 「なる程な。んなら兄者なら大丈夫だな。」 それこそ、なんの根拠かと思う。 「おめぇ難しい事知ってんな。ガキのくせによぉ。」 張飛の言う通り燎嵩にしては難しい言葉を口にしたと思う。 「祖父の言葉です。見知らぬ人間に勇気を持って近付く人は多くない、大半は縁を逃すんだって。でも、きっかけを掴み、話をしてみれば思っていたものとは違うものだと。」 「確かになぁ。さすがは人生長く生きた人間だ、言うこと違うぜ。」 祖父に感心していた。 劉備はあの後劉巴と黄権の元に足を運んでいった。 2人にコレからの行く末、時代の変動、劉備自身が成していく事を説いた。 劉巴、黄権も劉備の言葉に己を恥じて忠誠を誓った。 2人が恭順し、劉備は蜀の主と認められた。 城に帰り劉備は腰を降ろす。 タイミングよく諸葛亮が劉備に会いに訪れた。 「孔明、どうしたのだ?」 「はい、劉璋殿を荊州へと。」 「何故だ。彼に実権はない。荊州と遠い場所に送る必要はないではないか。」 諸葛亮は首を振る。 「まがりなりにも劉璋殿は蜀の主であったお方。近くに置けば―――。」 全て言い終わらないうちに劉備は諸葛亮の言葉を止めた。 「――国に2人も主は要りません。劉璋殿は殿に実権をお渡しになったのです。主としてご決断を。」
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