第壱章/義勇軍

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非情にならねばならない。優しさは却って自分の首を絞める結果になる。諸葛亮の意見は正しい。しかし劉備にすれば苦しい心境に違いない。 「分かった。劉璋殿を荊州に送ってくれ。」 「では、そのように。後は私がお引き受け致します。」 諸葛亮が下がろうとした時、劉備は諸葛亮を止めた。 「りょ、燎嵩をここに寄越してくれ。」 「――分かりました。」 劉備は眉間にシワをよせた。深く息もはく。 「漢王朝復興か――。確かに夢をみた。が、掲げているのは我らのみ。呉と魏は漢王朝復興など見向きもしない。新たな統治国家を掲げている。三分の計か。孔明が唱える通りになるのか……?」 一人省みていた。 思えば孔明と出会う前はなりふり構って居られなかった。寄りどころを転々として年月を費やしてきた。気がつけば40半ばを越していた。自分は何をしているのかと、流石に生き方を変えねばならない所まで来ていた。そして徐庶に出会い名士の存在を知る。 だが、曹操に徐庶と離されてしまった。これからと思ったのに。 しかし徐庶により『眠れる龍』の存在を知った。それが諸葛亮孔明であった。 隆中の草廬まで足を運び20も下の若い名士に三顧の礼を以て仕官を求めた。願い叶い名士を得たが、そこから漢王朝復興が悲願となったのも確かだった。 「劉備様?」 ハッとなり燎嵩を見た。 「燎嵩か。」 「あの……何か……。」 燎嵩を手招きして傍に座らせた。 「燎嵩、知っているなら答えてくれ。」 劉備の言葉に何を言っているのか理解できなかったが、勘で劉備は先を知りたいのだと理解した。 「曹操と孫権と私は……。」 言いかけたが、止めた。首をふり打ち消したようだった。 何を言いたいのか何故か分かった。 「劉備様……一つだけお教えします。曹操の魏、孫権の呉、劉備様の蜀、天下は三国鼎立となります。世はまだ統一は先になります。」 その答えに劉備は燎嵩に詰め寄る。 「それはまだ、私は突き進めると言う事か?。」 それに燎嵩は頷いた。 諸葛亮が思い描いた構想が実現する。それによりますます世界が混沌を呼び起こす事になる。不安定な世界。 「そうか……。まだ戦えるのか。」 劉備がここで終われば三国志など生まれはしなかった。三国志は後の人間により著された史実だが、その人物は元蜀漢の旧臣。名は陳寿。 しかし西晋の時代で蜀を漢の正統なる後継とは言うわけにいかない。 正史の随所に蜀への想いを散りばめ三国志が作られたのだ。 それにもう一つ。
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