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『ん…』
誰かの声がする。
聞き覚えのある…子供の声。
でも誰の声なのかは思い出せない。
『…さん…』
(誰だ…?)
『…さん…』
(俺を呼んでる?)
白く濃い霧の中を声のする方へ歩いて行く。
自分を呼ぶ声は周り全体から聞こえて来てどこに進んでいいのか分からず、ただひたすら真っ直ぐに歩いた。
濃い霧の中、正面に小さな影を見つけ歩く足が無意識に速くなる。
次第に影の姿がハッキリと形を現して、その影は小さな子供だと分かるくらいの距離まで近付いた。
子供は途一に背を向ける形で地面に座っている。
蹲るように丸められた身体は小さく…その背中は寂しそうに見えた。
「…君…?」
声をかけずにはいられなくて子供の肩に手を置こうと右手を伸ばす。
「…さん」
「え…?」
子供の肩に置こうとした手が無意識に止まる。
「お父さん…」
「お父さんどうして…?」
振り返った子供には顔がなかった。
子供の姿がグニャリと歪み全身黒い影へと姿を変える。
そして途一の腕に絡み付き途一の身体を取り込むかのように少しずつ侵食して行く。
「…めろ…ヤメローーー!!」
「おどうざん…どうじで…?
どうじで僕の事忘れだのぉおぉおおぉぉお!!!!」
子供とは思えない野太い叫び声を上げ、黒い影は途一の全身をグルグルと覆った。
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