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そう思うと辛かった。
部屋の戸の間からコッソリこっちを窺うように覗き見ていた息子の姿が頭をよぎる。
やはり頭に霧がかかっていて顔はハッキリとは思い出せないがあの真っ直ぐな瞳だけは覚えてる。
無意識に重苦しい溜め息が口から漏れた。
ズキズキと痛む頭が次第に和らぎ擦っていた手を頭から顔へと移動させる。
目尻に触れた指が微かに濡れた。
夢を見ながら泣く事もあるのか…と濡れた手を見つめてぼんやりと思う。
涙はほとんど乾いていた。
暑苦しい狭い空間を出て公園の水道で顔を洗う。
水は生ぬるかったが汗をかいた身体を洗うには丁度いい冷たさだ。
Tシャツを脱いで水で濡らしその濡らしたTシャツで背中や胸を拭く。
頭から水を浴びてワシャワシャと洗った。
ポタポタと髪の毛からいくつも水滴が零れたが濡れた身体はあっと言う間に乾いた。
太陽の日射しは強くミ~ンミ~ンとうるさいくらいに蝉が鳴く。
公園には途一以外誰もいないせいか蝉の声がいつもより大きく聞こえた。
目についた公園のゴミ箱を何となく漁ってみると灰色の小さなリュックがゴミの間から出てきてソレを拾い上げる。
リュックは多少汚れていたが使えない事はない。
よたよたのくたびれたリュックに死神から渡されたタマゴを入れ、左腕にかけた。
とにかくこのまま公園に居ても仕方がないので今日は昨日よりも遠くへ行こうと決めていた。
公園を出て、両脇が自分よりも高いコンクリートの塀に覆われてるアスファルトの細い道を歩く。
歩きながら昨日の事を思い出していた。
正直昨日の出来事がまだ実感出来ていない。
突然目の前に現れた黒衣の少女。
少女が言った事。
少女がやった事。
少女に渡された物。
本当にあの少女は死神なんだろうか?
死神なんてバカげている。
普通に考えたらあり得ないマンガの世界だ。
だったら昨日見た物は…
昨日聞いた物は全て夢の中の出来事だったんじゃないだろうか?
そう思いたいのに思えないのはリュックの中に入っているタマゴのせいだ。
このタマゴの存在が昨日あった事は全て本当の出来事だ…と実感させる。
このタマゴは何だ?
死神は言った。
タマゴはコータと言う少年の心だと。
死神はこうも言った。
タマゴは途一にしか育てられない…と。
しかも7日以内に。
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