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育て方も分からないし、7日以内に孵化させる自信もない。
本当にやれるんだろうか…
(いや…やらなくちゃいけないんだ…)
やれるやれないの問題じゃない。
自分はこのタマゴを7日以内に絶対孵化させなければならない。
育てられなかったら家の記憶も…息子の記憶も返って来ない。
だからどんな事をしてでも育てあげなければ。
絶対思い出す。
そう息子に誓ったんだ。
──ジャリッ…
「…え?」
いつの間にか地面がアスファルトとから砂利道へと変わっていた。
都会の真ん中で砂利道は珍しい。
両側にあったコンクリートの壁もない。
あるのは永遠と広がる田んぼばかりだった。
緑の稲が微かに揺れた。
「何だここは…?」
明らかにさっきまで居た場所とは違う風景に戸惑う。
高いビルもマンションもない、360度一面に広がる田んぼと山々。
道は今歩いている細い道しかなく、その道はどこまでも続いている。
「いつの間にこんな所へ…」
後ろを振り返っても同じ風景しか繋がっていなかった。
都会から一瞬で田舎に来た…そんな感じだ。
とりあえず一本しかないその道をひたすら歩く。
空は高く広く鳶が雲一つない青空を泳ぐように悠然と飛ぶ。
田んぼの稲が風でサワサワと揺れ太陽は相変わらず日射しが強い。
額からいくつも汗が落ちる。
濡れていたTシャツと髪はすっかり乾いたが、Tシャツは吹き出る汗で再び湿り出す。
喉はすでにカラカラだった。
昨日から何も食べていないのでお腹もさっきから音を立て鳴り止まない。
喉の乾きと空腹を無視して更に歩く。
どんなに歩いても人一人見かけないし誰かと行き交う事もなかった。
(…この道…懐かしい…)
そう感じるのはなぜなのか。
自分はここを知っている。
この道を前にも歩いた事がある。
それは遠い記憶。
(ここは…)
懐かしいのは当たり前だった。
「昔住んでた…町…」
なぜすぐに思い出せなかったんだろう。
田舎であればどこにでもある風景だが…この懐かしい感じ。
昔よく歩いた一本道は間違いなく記憶の中のあの道と一致した。
「あれは…!」
遠くに家らしき建物が見える。
(あの家は…あの家は!!)
残る力を振り絞り全力で走った。
次第に家との距離は縮まりその家の前で足を止める。
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