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(どうして俺…ここにいるんだろう。)
ガタガタ揺れる椅子に座りながらぼんやり外を眺めた。
片隅に置かれたテーブルと椅子は自分の置かれている状況を整理するには丁度いい寛ぎ場だった。
(俺は今朝まで東京にいたんだ…)
それなのにいつの間にかこんなところまで来てしまった。
これもあの漆黒を身に纏う少女のせいなんだろうか?
だとしたらなぜ彼女は自分をこの町に連れて来たんだろう。
意図的なのか偶然なのか…ただの人間である途一には人じゃない者の考えてる事なんて分かるはずもない。
こんな状況に置かれているにも関わらず意外にも頭は冷静だった。
(昨日からあれだけおかしな事を経験してれば多少の事じゃ動じなくもなるよな。)
慣れと言うものは恐ろしい…と身を持って知った。
「ほら。これをお飲み。」
「えっ…?」
千代婆が途一の目の前に水滴を垂らした瓶を一つ置いた。
見るからに冷たそうな瓶ジュース。
着色料をたっぷり使ったジュースは海の様に青い。
炭酸の泡がプツプツと何個も上に向かって上がって行く。
瓶から滴る水滴はテーブルに流れ落ち、小さな水滴の玉を作った。
「喉渇いてるんじゃないのかい?」
「ありがとう千代婆。」
カラカラになった口が冷たそうなジュースを見るなり再び唾液で溢れる。
無意識にゴクン…と喉が上下に動いた。
水滴の滴る瓶に触れると予想通りジュースはかなり冷たくて気持ちがいい。
その冷たい瓶を両手に取って火照った顔に押しつける。
水滴が顔を濡らしたが嫌な感じはしなかった。
数回顔にあてがってから栓抜きで瓶の王冠を引き剥がした。
取れた王冠はテーブルに転がりカラカラカラと音をあげて数回回った後、動きを止めた。
瓶を傾けて口に含むと爽やかなソーダの味が口いっぱいに広がりシュワシュワと口の中で弾ける。
ピリピリとした炭酸が喉を刺激して心地良い。
少しの間その心地良い感覚を楽しんでから一気に飲み干した。
シュワシュワピリピリした感覚が食道を軽やかにくだっていくのが分かった。
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