死神

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夏だと言うのに暑苦しい黒い布を全身に身に纏った少女が言った。 (変わった服だな…) 繋ぎのない黒一色の服。 喪服だろうか? 突然目の前に現れた少女は小学2、3年生くらいの年頃に見える。 フードを深く被っていて本当のところ少女か少年かは分からない。 少女だと思ったのは直感だった。 黒衣の裾がスカートのようになっているから女の子だと思ったのかも知れない。 「…え? …ごめんお嬢ちゃん。 最後の方聞き取れなくて…」 「ねぇおじさん? おじさんにこのタマゴあげる。」 お嬢ちゃん…と言って否定しないと言うことはやっぱり少女なんだろう。 どこから取り出したのか、少女はダチョウのタマゴくらい大きなタマゴを両手に持って差し出す。 「おじさん…まだ36歳なんだけど…。」 おじさん呼ばわりされた事に落胆しつつ、少女が持っているタマゴが気になった。 「大きなタマゴだね。 何のタマゴだい?」 「心のタマゴ。」 タマゴに頬を寄せて呟いた。 「心の…タマゴ?」 (小学校で流行ってるのか?) 「ねぇおじさん、タマゴ貰って。」 「いや…おじさんは貰えないよ。 育てられないし…。」 「貰うよ。」 「え…?」 フードから見える口元だけで笑みを見せる。 ―ゾクッ その笑みを不気味に感じた。 背筋に何かが走る。 「貰うよ。」 「…何…?」 「おじさんはタマゴを貰うよ。」 「何言って…」 ― シラキ トイチ ― 「えっ…?」 「白城途一、36歳の会社員。 妻白城美沙と9歳になる一人息子との3人暮らし。」 「…なんで…」 「おじさんの事なら何でも知ってるよ」 フードの奥から少女の楽し気な笑い声が漏れる。 「仕事人間で家庭と息子の事は妻に任せきり。」 「っつ!!」 「あぁ……そう。 おじさんの息子は一年前トラックに…」 「やめろ!!」 無意識に両耳を両手で押さえていた。 少女がゆっくり近づいて来て蹲る様に丸められた途一の背中にソッと触れる。 少女の手は氷の様に冷たくて触れられたところから冷えて行く。 その冷たい手で耳を押さえる途一の手を掴み、ゆっくり外させ自由になった途一のソレに静かに囁く。 『息子は一年前トラックに跳ねられて死んだ…』 子供の愛らしい声とは裏腹に囁かれた言葉は冷たくて残酷な事実だった。
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