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「コータには父親がいない。」
「…え?」
「母親の愛情は知ってるけど父親の愛情は知らない」
―ドクン―
また一つ心臓が音を立てる。
「そう…まるで…おじさんの息子みたいに。」
「―っつ!!」
愛してなかった訳じゃない!!
そう言いたいのに言わなかったのは死んだ息子に言い訳してるようで嫌だったから。
「………………り…」
「え…?」
少女が何か呟いたけれど聞き取れなかった。
「…父親の愛情を知らないコータの心を満たす事が出来るのは…」
少女はゆっくり途一の両手にタマゴを乗せて途一の左耳に静かに囁く。
「息子に愛情を与えてやれなかった…と息子が死んでから後悔してる可哀想なおじさんだけ」
――ドクン!!――
「はっ…放せ!!」
少女の細い腕を払い除けて勢いよくベンチから立ち上がる。
途一に押され少女の小さな体は吹き飛んだが地面に倒れる事はなかった。
なぜなら途一に押された瞬間少女がタマゴと共に消えたからだ。
まるでマジックの様に一瞬で消え去った。
「…どこに…行ったんだ…?」
『どうして貰ってくれないの?
育てられるのはおじさんだけなのに…』
「どこにいる!?」
辺りを見回して見ても自分の姿以外は誰もいない。
少女の姿も見当たらないのに声だけは身近で聞こえる。
錆びれたブランコが誰も乗っていないのにギィギィ音を立てて勝手に動き出した。
『あの子もおじさんの息子と同じ寂しい思いをしてもいいの?』
「お前に俺の息子の何が分かる!!」
『…分かるよ』
(クソッ!どこから声がするんだ!?)
ギィギィ音を立てて動くブランコまで足を進めると動いていたブランコがピタリと止まる。
『ところでおじさん?
おじさんの息子の名前は?
…名前は何て言うの?』
少女の声が今までより大きくはっきりと聞こえた。
直接頭の中に囁かれたようなそんな不気味な感覚に途一の身体がビクッと反応した。
「…俺の息子の名?」
(何で息子の名前なんて…)
「息子の名は…」
――あ…れ…?
息子の…
息子の名は…?
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