死神

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『ねぇ…おじさん。 早く息子の名前を教えてよ?』 「う…うるさい!!」 (息子の名前…) ―分からない― 「…からない…分からない…思い出せない…」 頭を両手で押さえて地面に膝を付き蹲る。 息子の名前が思い出せない。 名前だけじゃない顔も思い出せない。 息子がいた事は覚えてる。 存在は覚えているのに顔と名前が思い出せない。 思い出そうとすると頭の中を白い靄が覆った。 記憶の中の息子は全身が黒い線で縁取られ…まるでただの人影の様だった。 何で?どうして!? 疑問の言葉しか頭に浮かばない。 (いつからだ!?いつから忘れた!?) 最初に少女と話した時までは覚えてたはずだ。 「…お前か…? お前が俺に何かしたのか!?」 「お前なんだろ!? 俺に何をしたんだ!!」 辺りを見回して見てもやはり自分以外公園には誰もいない。 黒衣を身に纏う少女の姿もどこにも見あたらなかった。 「どこにいる!? お前なんだろ!?」 その時だ。 少女が途一の目の前にフワリと姿を現したのは。 「―っつ!!」 突然現れた少女の姿に驚き一歩後退る。 「そうだよ…」 後退る途一を追うように少女は一歩踏み出し触れるか触れないかの距離まで顔を近付けて言った。 「おじさんの記憶を奪っちゃった」 「―っ!!この!!」 深く被っている黒いフードを取ってやろうと手を伸ばした。 けれどあと数センチと言うころで、手はフードに届くことはなく虚しく空を切っただけだった。 少女が後ろに一歩さがったから。 「俺に何をしたんだ!! 催眠術か…?」 「違うよ。ただ奪っただけ」 「…どうやって…」 いつの間に…? (いつだ…?最初に触れられた時か?) 「おじさんがタマゴを育ててくれるなら返してあげる。」 「ふざけんな!」 「どうして? …記憶欲しくないの?」 少女の声が低くなり、少女を取り巻く空気が暗く重たい物へと変わった。 「…それともやっぱり…そんなに愛してなかった? 平気で諦められるくらい…いらない記憶だった?」
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