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「じゃあ…これならどう?」
――パチン☆
少女が右腕をあげて指を鳴らした。
「………?」
「分からない?」
「…何…が…?」
フードから見える少女の口許がニヤリと歪められるのを途一は見逃さなかった。
「おじさん…おじさんの奥さんの名前…何て言うの?」
「―っつ!!!!」
途一は少女から後退り必死に妻を思いだそうと頭を抱えた。
―思い出せない―
「クソッ!チクショウ!!」
ギリギリと拳を握り締めて地面を叩いた。
「これで…タマゴ貰ってくれる気になった?」
「ふざけんな!!
俺はそんな物受け取らないからな!!」
「どうしてさ!?
ただ育てるだけなのに!」
初めて少女が声を荒げた。
「おじさんにとって家族はどーでもいい存在なの?」
今まで感情が見えない淡々とした口調だったのに…。
「そうじゃない。
お前のやり方が嫌いなだけさ。」
少女を拒絶した事に不安を感じなかった訳じゃない。
頭だって混乱してる。
「…誰もがお前に従うと思うなよ?」
相手の弱味を握って無理やり従わせようとする少女のやり方に正義感の強い途一は許せなかった。
「…」
フードで表情が見えないから感情も読み取る事が出来ない。
「………じゃあ仕方ないよ」
「おい!!
記憶を返せ!!!」
少女に掴みかかろうと手を伸ばしたが少女には届かなかった。
フワリ…と宙に浮かび消えた。
少女は途一の背後に距離を置いて再び姿を現す。
「お前…何なんだ…?
幽霊…?」
途一の問い掛けに少女は答える事はなく無言で佇む。
宙に浮かんだまま。
「…一つ教えてあげる。
おじさんがタマゴを育ててくれないとコータは死ぬよ」
「…何…?」
「コータは死ぬ運命なんだ。
コータには常に死の運命がまとわりつく。」
「何だ…それは…?
意味が…言ってる意味が分からない。
お前は…いったい…」
少女の存在を途一には理解出来なかった。
一瞬で人の記憶を奪い。
宙に浮かび、消えたかと思えば突然現れ…
人の生死を左右する。
少女はこの世の者ではない。
けれど…
幽霊と言った感じでもない。
途一には少女がもっと禍々しい物のように思えた。
漆黒の布を身に纏うその姿は…悪魔…いや、『死神』と言う名が最も相応しい。
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