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M区画は港湾地区の中で軍専用の区画を指す。
その一角、ちょうど発艦ゲートを見下ろせる位置に士官クラブ
『スター・ゲート』
がある。
・・・・・・・・・・・
「ほとんど貸し切り状態だな」
「まったくです」
タケル・ゴウとシン・ナオエの両中佐は、眼下に停泊している、大小の艦艇を眺めながらのコーヒータイムである。
時間は、1時を少し回った所だ。
今頃、食堂は大混雑であろう。
しかし、この時間に、ここに来る酔狂な奴がそうそう居るとは思えない。
何せ、ここにはろくに食い物が無い。
正しくは、時間帯が悪いのだが、、。
ここが『クラブ』として機能するのは5時以降である。
それまでは開店休業状態だ。
そもそも、酒の飲めないクラブに用は無い。
普段は、せいぜい重要性の低い会議や勉強会などの会合に使われる程度。
大体コーヒーですら
『セルフでお願いいたします』
なんて貼紙を出すくらいなら、素直に閉鎖しておけばいいんじゃないかと思う。
だから、いつもなら競争率の高い『特等席』も貸し切り状態だ。
「それにしても、本当に大丈夫か?
こんな所にいて?」
ナオエ隊の出港は三時間程後の予定だ。
本来なら、艦長たる者。事務手続きやら、最終確認やら、やる事は山積みの時間帯だという事ぐらい艦長一年生のタケルでも知っている。
「いやぁ、本当ならそうなんですがねぇ、、」
シンはコーヒーの香気を楽しみながら、皮肉な笑みを浮かべる。
「ほら、昨日のアレで大体の準備が済んじゃいましてねぇ」
「あぁ、、なるほど、、あ?でも再申請とか必要じゃないのか?」
官僚主義の見本と言える地方艦隊指令部。
その傘下である
『軍港管理部』は、ミスを認めない事で有名だ。
明らかなミスであっても指令部の力と、規則を盾に『謝らず』『責任転嫁』する。
『船乗り泣かせ』の軍港部を相手にしては、書類の再申請くらいは日常茶飯事だ。
「それがねぇ『私達』はやらなくていいって言われましてねぇ」
「『私達』?どういう意味だ?」
「さぁ?誰かが代わりにやってくれたんじゃないですか?」
「だっ、、誰かって!
気にならないのか?」
「別に。
気にしても仕方ないですから」
この男、神経質そうに見えて、ときどき驚く程アバウトな言動をする。
ある意味、大物なのかもしれない。
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