提督

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初めに、それに気付いたのは『ダブルチェリーズ』だった。 華やかな笑い声が、ふいに途絶えた。 その変化に、話し込んでいたシンが気付いた。 副官達の方に視線をやり一瞬、驚きの表情で席を立つ。 その様子に、怪訝な表情を浮かべつつタケルが、その視線の先を追った。 「えっ?!お、、い、、まさか?」 タケルは、自分の声が上擦るのを自覚した。 そして、思わず席から立ち上がる。 一人の男性が、タケル達に近付いて来るのが見えた。 当然軍人だ。 しかし、タケル達とは、ジャケットの色が違う。 『光沢のある黒』 それは将官のみに認められた色だった。 将官なら、士官クラブの利用資格は当然ある。 問題は服の上にあった。 …………………………… 「貴官らが、ゴウ中佐とナオエ中佐か?」 柔らかいが良く透る声が響いた。 フロアから二人を見上げる将官服の初老の男性。 「は、、はい!」 タケルは慌てて敬礼。 『特等席』から降りようとした二人を、男性は軽く片手を挙げて制すると脇のステップを昇り、近付いて来る。 視界の端に、慌ててこちらに駆け寄るチェリーズを認めつつ、タケルは自分の鼓動がわずかに速まるのを感じた。 ステップを昇りきった人物がタケルの方に向き直る。 銀髪と言うにはくすんだ針金色の短めの頭髪。 視線が合う。 好々爺を思わせる柔和な表情を印象付ける細められ瞳は、濃い焦げ茶。 タケルは、その人物を知っていた。 否、軍籍に在って、その人物を知らぬ者などいる筈はない。 『ウイリアム・レクター・コダマ中将』 その名、その存在は、軍にとっては、まさに 『生きた伝説』 だった。
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