ウェリントン基地

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「先輩!」 聞き覚えのある声に、 『タケル・ゴウ』は、 思わず足を止め、振り返った。 向けた視線の先には、ライトブルーの士官服に、ライトグレーのスラックス。 典型的な艦橋勤務士官の出で立ちの男には見覚えがあった。 斜に被ったベレーと同色の黒い頭髪と同色の瞳が縁無し眼鏡の奥で笑っていた。 「シン!?」 「お久しぶりです!先輩!!」 タケルは、捧げられた略式礼に、慌てて返礼するが、その動作はなんともぎこちない。 「相変わらず下手くそですねぇ、先輩」 「仕方ないだろ? こうゆぅのは苦手なんだから、、」 「まぁ先輩らしいですけどねぇ」 『シン』と呼ばれた男は略式礼を解きながら片目をつぶってみせた。 「あぁ、それより時間ありますか? 久方ぶりの再会を祝して、ね?」 タケルは時計を見た。 受けた辞令の発効まで、まだ三時間以上ある。 「大丈夫みたいだな。 行くか?!」 「いい店を知ってるんですよ!」 二人は肩を並べ歩き始めた。 ・・・・・・・・・・・ ウェリントン基地は、直径25キロ程の人口天体である。 『統一地球政府軍銀河系中北部方面軍』 その中核をなす、五つの軍事天体ネットワーク。 通称『キングダム』 の一つである。 軍、民間合わせて十万人以上の人口を有する都市であり、通商航路の中継点としての側面も併せ持っていた。 『F区画』 民間商業区画の一角に 『カフェ・ド・ブリティシュ』があった。 「二年ぶり、、位か?」 タケルは特製オレンジタルトをフォークで切り分けると嬉しそうに口に運ぶ。 「お?なかなか!」 「でしょう?」 『シン』は自慢げな笑みを浮かべ、紅茶を一口。 『シン』こと 『シン・ナオエ』は、 タケルの宙航商科学校時代の、一つ下の後輩にあたる。 階級は共に中佐。 勤務時間内である以上、アルコール類はマズイとはいえ、高級士官が喫茶店で 『ケーキにソフトドリンク』 というのは、なかなかに微笑ましい光景である。 「ところで、先輩。 この度、艦長になられるとか」 レアチーズケーキをフォークで突きながらの後輩の問いに、タケルは一瞬目を丸くした。 正式発表は、まだの話題だ。 「何処から、、そんな」 言いかけて止めた。 「相変わらずだなぁ」 頭を掻きながら思わず苦笑する。
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