…三…

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「敵機、間もなく先行のファントマの攻撃射程に入ります!」 オペレーター報告に艦長は頷く。 「フォーメーション・デルタで迎撃!」 「了解!」 素早い指示にオペレーターが即応する。 対空迎撃で重要なのは、スピードと手数だ。 戦闘が始まれば、ベストな方法を考える時間は無い。 可能な限り早い段階で、強烈な一撃を加える。 決まればそれまで。 万が一仕留め損なったら考えうる中で、ベターな手段で攻め続ける。 攻め続け、相手に隙を見せない。 どれほどのエースが相手でも所詮は一人だ。 長引けば、ミスを起こす確率は格段に高くなる。 そこを突く! 仮に撃破出来なくても、相手が不利を悟り撤退するならそれで充分だ。 これこそが、経験に依って確立されたマフディ艦長の戦術である。 もっとも、模擬戦とシュミレーションによる経験ではあるのだが。 厳しい訓練の成果は、必ず実戦で活かせる筈だ。 マフディ艦長は自らに言い聞かせた。 …………………………… 五機のファントマが、一糸乱れぬ編隊を維持しつつ標的を目指し疾駆していく。 外装の武装パックは展開を終え、臨戦体制は完了済みだ。 機体各所のセンサーが目まぐるしく明滅を繰り返し直前情報の収集を開始する。 横一文字の編隊が、みるみる内に組み変わっていく。 左右に位置する二機づつが先行し、相手に対して正方形を作る。 それは、最も効率的に火線を集中出来る機体配置だ。 万全のフォーメーションを組み上げると、ファントマは更に加速した。 …………………………… 『ファントマ』は単座戦闘艇の開発、及びパイロットの育成に遅れをとった統一軍の苦肉の策である。 『既存の作業ポットを改造し、敵単座戦闘艇に対抗せしめる』 と言うシンプルなコンセプトで開発された機体は開発期間の短さもあり、単機としての性能は、軍の要求を下回るで物あった。 そこで開発陣は、性能を運用方法で補う事を考えた。 一対一がダメならば、複数で対抗する。 それは安価に量産でき、パイロット養成が必要無い機体の強味であった。 この方針変更の効果は、すぐに現れた。 単座戦闘艇の出現によって変わりかけた戦況の引き戻す事に成功した。 戦線に『ファントマ』が登場してから約30年。 今や機体性能やパイロット技量も、拮抗の域に達しつつあるが、ファントマへの信頼は高く、戦力の一角を担うに足る存在へと成長遂げていた。
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