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「閣下!ど、、どうぞこちらに!」
タケルは奥の席を示しつつ壁際に身を寄せた。
周囲に遮蔽物らしき物がほとんどない二階のテラス席で、重要人物を座らせるのに本当に正しい席位置かはわからない。
世間的には、正しい筈の出入口から一番遠い席をとりあえず勧める。
「先輩っ!敬礼っ!」
シンの小声の注意に慌てて敬礼。
目の前を通り過ぎていく『伝説』を身を強張らせて見送る。
シンよりやや低い頭の位置。
男性、それも軍人としてはかなり小柄だ。
ニュース映像等で見た時の印象との違いに、僅かな戸惑いと意外さを感じながら、タケルは『伝説』を視線で追った。
視線の先で、シンが絶妙なタイミングで椅子を引いてるのが見えた。
コダマ中将は、軽く手を挙げて敬礼を解く様に促してから、ゆっくりとした所作で腰を降ろす。
「二人とも、まぁ掛けたまえ」
中将の柔らかな声に促され、二人は席につく。
タケルは独特の緊張感を感じながらも、意外と冷静な自分に気づいた。
視線の端でシンが眼と僅かな手振りで合図。
「閣下!コーヒーでよろしいですか?」
よろしいも何も、それ以外の選択肢にはミネラルウォーターしかない。
とりあえずロゼッタにコーヒーを頼もうとタケルは立ち上がった。
「いやぁ、、それには及ばんよ」
コダマ中将は軽く右手を上げた。
「!」
タケルは思わず息を呑む。
その右手に、唐突に紙コップが現れた。
誰かが差し出したらしいと気付くには、数秒を要した。
それ程、その出現は唐突だったにもかかわらず、紙コップのコーヒーには僅かな揺れもない。
「少佐、すまない」
「どういたしまして」
笑いを含んだコダマ中将の声に、若い女性の声が応じた。
「な?!」
その声の意外な近さに驚き、タケルは声の方に振り向いた。
「な?」
振り向いた視線の先に、艶然と微笑む若い女性の顔があった。
………
「ほぅ?貴官は驚かんのだな?」
コダマ中将が興味深げに目を細めた。
居合わせた一同が、驚き戸惑う中、二人だけが平静であった。
「閣下の副官殿とは、些か面識がありまして」
不機嫌そのもの表情でシンが応じた。
「今をときめくナオエ中佐が、私ごときを覚えていてくださるとは!
でも覚えていてくださってるなら、その物騒な物はしまっていただけませんか?」
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