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慌てて振り返ったタケルの視線の中、シンがわざとらしい仕種で右手を目の高さにかざした。
「シ、、シン!お前っ!?」
タケルは言いかけて思わず絶句。
その手の中にあったのは独特な形状の銃。
袖口に隠しておける程小さく、いざという時は瞬時に射手の手の中に現れるそれは『スリーブ・ガン』の通称で知られている。
一応は護身用だが、世間では暗殺用として名高い銃である。
「まったく、、相変わらず人を喰った物言いですねぇ、、マルローネ・蘭飛(ランフェイ)、、今は少佐でしたか?」
手慣れた様子で銃を袖口に戻しながらシンが視線を上げる。
口調こそ穏やかだが、その目力は尋常ではない。
小動物なら一睨みで即死させそうな勢いだ。
「どうせなら後もう半歩、前に出てくれたなら、不審者として撃てたんですけどねぇ。残念です」
冗談の目じゃない。
奴ぁ本気だ!
タケルは確信した。
「まぁ!怖い!怖い!」
艶のある声が応じる。
笑いを含んでいるが、何処となくトゲが感じられるのは気のせいではあるまい。
「御同席させていただいて宜しいですか?」
と問い掛けはするが、返事など待たずに、さっさと着席する。
それもシンの正面だ。
こちらは、こちらでいい度胸である。
「しかしまぁ『火の玉マリー』が今や閣下の副官とは!世の中わからない物です」
「あら!それをおっしゃるなら『陰険司書』が今や艦長でいらっしゃる』
ピシッ!
双方の視線が交わった瞬間。
何かが張り詰める音をタケルは確かに聞いた。
………
「さてと、、さして時間もない様だから、用件を済ましてしまうとしようか」
心温まる緊迫を破ったのはコダマである。
ゆっくりとした所作でシンの方に身体を向けると、一呼吸。
「ナオエ中佐、貴官及び配下乗員に、多大な迷惑をかけてしまったようだ。
申し訳なかった。
許しては貰えまいか?」
そう言いながら頭を下げる。
ごく短くはあるが、その角度は、会釈レベルではない。
タケルは、その光景に思わず息を呑んだ。
軍隊という組織は、言うまでも無く『超』が付くほど強烈な縦社会である。
階級が上の者が『黒』だと言えば、例え『白』だろうが『ピンク』だろうが『黒』になる。
例え自身に非があったとしても四階級も下の者に頭を下げるなど有り得ない。
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