ウェリントン基地

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ギクッ! タケルは、かつてこれほど『暴力的な笑顔』を見た事がなかった。 おそらく、写真に写らない。 『ライブ』の迫力ってやつだ。 一瞬、少女の背後に 『怒』 の文字が浮かんで消えたのは錯覚ではなかったのではないか? 「この場合、、 『何もしてない』事が、、問題なんです!!」 「そんな理不尽な!」 シンが僅かな抵抗を示した瞬間! 堰を切った様に、少女の『口撃』が始まった! 些か、理論性に欠ける部分は目立つが、その手数の多さたるや感動的ですらある。 圧倒的にして、一方的じゃないか! まさか、あの男が 『年端もいかない少女』 に言葉で圧倒される場面が見られるとは、、。 長生きはするもんだ。 あぁ、、コーヒーが美味い、、。 先程から、シンがしきりと助けを求める合図を送っている気がするが、多分気のせいだ。 間違いない! 自分に火の粉がかからなければ、こんなに楽しい見せ物は、滅多にない。 タケルは、『友情』より 『娯楽』を優先する決意を固めた。 ・・・・・・・・・・・ 「…ですから、副長がカンカンなんですから、早く戻って下さい!」 少女の口から発せられたえらく違和感のある単語に気付いた。 『副長』タケルが知る限り、一般では、特にあの年頃の女の子はあまり使わない単語だ。 「あぁ、、えぇっと、、お嬢さん?」 個人的には、もう少し見ていたい気もするが、さすがに少々哀れになってきた。 それ以上に別の興味も湧いてきた。 ついでに、ここでこの男に貸しを作っておくのも悪くはない。 「はい?」 振り向いた少女の満面の笑顔の圧力に、一瞬たじろぐ。 なぜか教師に嘘を見透かされた小学生の様な、妙に落ち着かない気分だ。 「あ、、えーっと、お嬢さん。何があったか知らないが、ここは私に免じて、そいつを許してやって貰えないだろうか?」 まったく本心ではない以上、多少棒読みっぽくなるのは仕方ない。 「タケル先輩?!」 突然の差し延べられた救いの手にシンが驚きと安堵の声を上げた。 「タケル、、先輩?」 少女が一瞬、キョトンとした表情をした後、その視線が、二、三度タケルの顔と肩口辺りを行き来する。 「もしかして、、、タケル・ゴウ中佐でいらっしゃいますか?」 少女らしい、はにかんだ様な表情としゃべり方。 「そうですよ」 タケルの対応に、少女の表情が、パッと和らぐ。 掛け値無しの笑顔。
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