ウェリントン基地

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歳相応の、華やかで愛らしい笑顔だ。 「中佐!大変失礼いたしました!!」 少女は姿勢をただすと、上着のポケットから、素早く何かを取り出すと、タケルに差し出した。 ・・・・・・・・・・・ タケルが軍籍に身を置くようになって、そろそろ八年になる。 職業柄『IDカード』 なんて物は、毎日数えきれない位、見せたり見せられたりする物だ。 否、見せた、見せられたという感覚さえ希薄だ。 なんとなく見て、判断らしき事をしている。 日常生活で、IDカードの価値などその程度だ。 二秒見て一秒で忘れる。 その繰り返しの一つの筈だった。 『アリシェラ・チェリーブロッサム』 という些か風変わりな名前の脇の2.5次元フォログラムは、確かに少女の顔だ。 問題なのは、 所属:正規宇宙軍 階級:少尉 をぃをぃ冗談じゃない。 統一政府基本法と軍事基本則で、18歳未満の未成年の軍隊入隊は、特例を除いて認めていない。 もしかして、知らないうちに戦時特例の動員令が発効されたというのか? …にしても若過ぎる。 「中佐?どうかなさいましたか?」 覗き込む少女の無邪気な笑顔が、、胸に痛い。 ここまで戦局が悪化していたとは! 寒い、、時代じゃないか!! 「あぁ、、先輩?」 呆れたような後輩の声。 「何を考えてるか、大体わかるんですが、、名前の隣、、見て下さい」 名前の隣 そこには生年月日が記されて、、。 あれ? これが正しいとすると、、、。 23、、だと? 「気付きましか?先輩! えぇ、、 間違いないですよ。 私の副官ですから」 ・・・・・・・・・・・ 「スゴイのを副官にしてるなぁ、、お前」 「えぇ我ながらスゴイと思います」 本人に聞かれたらぶっ飛ばされかねない台詞を口にしながら、二人はそれぞれコーヒーと紅茶を口にした。 当の本人は、通話室に関係部署に連絡を取りに行っている。 今回の騒動の原因は、軍令部の伝達ミスによる物だ。 先発する同規模部隊に出される筈の命令が、ナオエの部隊に誤って伝達されたのだ。 任地出発前の休暇に入っていた乗員はパニックになった。 当然だ。 準待機に移行寸前だった連中は、艦に集合できたが、完全待機組の中でも肝心の艦長と何故か連絡が取れない。 時間は迫る。 副長としては頭が痛い状況だ。 経験豊かな副長として知られる 『ニールセン大尉』は 苦労の末、チェリーブロッサム少尉と連絡を取る
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