ウェリントン基地

8/10
前へ
/38ページ
次へ
真面目な表情を作ろうとしているが、目許、口許に浮かぶ満足気な笑みは隠しきれていない。 全身から 『褒めて!褒めて!!』オーラが出ている。 実際、状況を理解してからの少尉の変身ぶりはすごく、献身的な働きは称賛に値した。 「はい、、ご苦労様」 肝心の上官は実に素っ気ない態度で、視線さえ向けようとしない。 さっきとは違った 『見せ物』 の予感にタケルは再び観客モードに入った。 「まぁ、とりあえず座って下さい」 シンは、自分の隣に座るよう身振りで少尉に促した。 「よろしいんですか?」 少し驚いた様子の少尉に 「あなたも完全待機でしょ? なら、階級は関係無しです。 だいたい、そんな所に立っていたら、周囲に迷惑じゃないですか」 この男には珍しいぶっきらぼうな物言いだ。 「では、、失礼します」 ちょこんっという感じで少尉が腰掛ける。 一応、二人掛け用とはいえ、決して広くは無いシート。 互いに、小柄な部類に入る事を考慮しても、20センチ近い隙間を開ける事は相当に難しい。 両者が、おもいっきり遠慮しているから出来る芸当だ。 実に恥ずかしくも初々しい光景だ。 ラブコメか? 今時ラブコメが見れんのか? しかも相手が『この男』 長生きはするもんだ。 いつの間に注文したものか、イチゴのショートと紅茶が少尉の前に運ばれてきた。 「これは?」 「ご褒美です」 「うわぁぃ!」 満面の笑みで、フォークを手に、ケーキに挑みかる寸前で、その手が止まる。 「でも、、なんでこのチョイスなんですか?」 「遥か昔から、お子ちゃまへのご褒美は『これ』と決まってるからです」 「ムキィーッ!! なんで何時も子供扱いするんですかぁ!!」 「嫌なら、片させますけど?」 「、、結構です! 頂きます!」 言うやいなや、かなりのスピードでケーキを食べ始めた。 こうして、二人の様子を見ていると案外違和感が無い。 むしろ『お似合い』じゃないかと思えた。 そう思ったらタケルは、つい笑ってしまった。 「あ?今、、笑いましたね?先輩!!」 シンが不機嫌そうな視線を向けてくる。 少尉も、手を止めタケルに視線を向けた。 「お前さん達、仲が良いなぁと思ってな!」 「どこがですか!」 「どこがですか!」 二人の声が綺麗にハモった。 その様子を見たタケルの笑い声が、店内に響いた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加