10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
屍晒し
月下の夜、街道から外れた草原で、二人の侍、二匹の修羅が向かいあっていた。片方の修羅は大柄で圧倒的な威圧感を放ち。もう一匹の修羅は長髪を後ろで束ねた、女と間違えてしまいそうな、見目麗しい美剣士。
八双に構えた大柄な修羅が放つ獣の様な、相手を覆いつくす殺気。動。
対する美剣士が放つ殺気は静。だがそれは、彼が正眼に構えた刀の切っ先ように鋭く冷たい。
――さて
距離は五間程あるが、そんな物は自分にとって、あまり意味は無い。一瞬で詰められる距離だ。無論相手も同じだろう。
既に互いの剣気は満ちている。後はきっかけだけ。
何故こうなったか?
自分は剣において、他者よりは才があると自負している。修業とて怠らなかった。この齢まで死線を越えた数も、十や二十ではない。
それは、今相対する大柄な剣士もそうだろう。
いや、“そうなのだ”
この場で互いに剣を構えて戦う事も、どちらかが言い出した事では無い。
道で目が合った時に、ただ“解ったのだ”
目の前にいる剣士が
自らと同じ“修羅だと”
互いが理解したのだ。
場所も時刻も決めた訳ではない、ただ引き寄せられる様に足が動き、此処に来た。
時刻は丑三つ時。 だが。
たとえ人外の者、妖魔の類であってもこの戦いの邪魔はさせん。
――ふっ
いや、既に自らも相手も人ではないか。
口元に自然と笑みが浮かんだ。
相手の刀を見る。反りは殆ど無く、通常の刀よりも刀身が厚い。相手の剣士があの刀、体格で繰り出すのは間違いなく剛剣。
まともに打ち合えば、三撃、いや、二撃受ければ自分の刀は使い物にならなくなる。受け流しても二撃、自らの刀が刀としての機能、形態を保てるのはそれが限界。三撃目には身体ごと断たれるであろう
もとより、打ち合う気など無いが……。
足の指だけで、毛ほどの僅かな距離を詰めた。
奴が剛剣ならば、自らが使う剣は瞬剣。受けず、受けさせない剣。
互いに名など名乗らない。
その行為は無粋だからだ。
これから始まる戦いこそが唯一絶対。至高の行い。
余計な物等一切いらない。
「……行くぞ」
相手への言葉ではない、それは自らへの暗示に近い。
月が隠れた。
闇が満ちる。
足に力を込め地を蹴る。
最初のコメントを投稿しよう!