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気まずい・・・・
走る車の軽快さとは裏腹に、車内には重い沈黙が垂れていた。
助かったことに、重い空気に窒息させられる前に、見覚えのある駐車場に止まった。
夏には海水浴も行われている、地元でも有名な汚い海の、無駄に広い駐車場。
なぜか、駐車場のアスファルトを囲うように、椰子の木が林立している。
この季節にもまけず、健気に立っていた。
「ね、歩こうか」
車のエンジンを止めても、反応なく呆然としている林檎に、痺れをきらしたかのように声が響いた。
「はい・・・・」
林檎の返事を聞くと、さやかはにこりと笑い、重い扉を開けて外に出て行った。
林檎も慌てて、ロックを解除すると外へとつづく。
外に出ると、冷たい風に運ばれて潮の匂いがした。
久々のかおりだ。
学校帰りに気軽に行けるほど近いわけではないので、夏場くらいしか来たことはなかった。
相変わらずの、灰色の海を見ていると、さやかが砂浜へと足を進めているのが視界をよぎった。
・・・この寒いのに、海に行くのかよ。
女の考えることはわからない。
林檎は一息つくと、さやかの後を足早に追った。
舗装された駐車場から、砂浜へと降りていくと、途端に砂に足をとられるような感覚がする。
鬱陶しそうに、足を懸命に上げながら歩いていると。
(脱げばいいじゃん)
誰かの声が頭に反響した。
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