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あれは幼い夏。
生まれて初めて見た海は、この地元の海で。
引っ越してすぐに会った、失礼な男の子の家族と連れ立って来た海。
海は蒼くて、きれいなものだと聞いていた林檎は、目の前に広がる灰色の海にガクゼンとした。
「こんなの、うみじゃない!」
ほんでよんだうみは、あおくて、きれいで、こんなきたないいろじゃなかった。
あまりの違いに愕然と佇む少年の後頭部を、潤がぺしっと軽く叩く。
「っつ・・・!」
頭を抑えて振り返ると、呆れた顔をした潤が「ばーか」と口を開けている。
「うみっつってもいろいろあんだよ」
そういい捨てると、そのままみどりを連れてずんずんと先を歩く。
先行く背中を見送りながら、林檎は叩かれた後頭部を摩っていた。
なんだよ、置いていきやがって。
潤の腰の辺りをじゃれつくみどりに、笑いかけながら進む背中が突然振り返った。
「こないのか?」
林檎をまっすぐみるその瞳には、先ほどのような馬鹿にした色はない。
「行くよ!」
すねているのがばかばかしくなった。妹と一緒に楽しげな背中が、自分のために振り返ったことがうれしかったのかもしれない。
いずれにせよ、林檎ははじめての海を堪能すべく、駆け足で砂浜に入ろうとした。
が。
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