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僕を見上げるムーンの瞳を見つめている僕の頭の中で何かがパチンと音をたてて弾けた。
僕が僕になる前…幾生と呼ばれていた頃、僕は恋をしていた。
ずっと遠く離れた場所に住む彼女は月子という名で、その名の通り密やかに輝き、なくてはならない存在で…
かといって、手に入れたくても決して手に入らなかった、本当に月の様な存在だった。
光り輝く満月のように真っ直ぐ愛を向けてくれるかと思えば、欠けて欠けて真っ暗な闇の夜のように、手探りしてもわからない日もあったり…
とにかく僕は彼女に夢中でいつも彼女の事を思っていた。
逢いたくて、逢いたくて、抱き締めて、ずっと腕の中に抱えていたくてたまらなかった。
けれど彼女はそう言う僕に『逢えないの…』と淋しそうに呟くだけだった…
『逢いたいよ。逢って抱き締めたいよ』
『好きだから、逢えないの…』
『でも、いつか…僕は必ず君を抱き締めるから…』
『そんな事したら…離れたくなくなる…一人占めしたくなる…だから逢えないの…』
『じゃあ、今じゃないいつか…お互い一人占めしても大丈夫になったら、抱き締めて離さないから。良いよね?』
『うん。忘れないで…私も忘れないから…必ず貴方の側に行くから…』
『きっとだよ』
『うん。きっと…』
まるで昨日の事の様に思い出した僕の瞳からは、ただただ涙がこぼれ落ちた。
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