surely

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『ムーン。行って来ます』 にゃあ… ムーンはちゃんと返事をして見送ってくれる。ベタベタ甘えたりはしなかったけれど、僕が話しかけると真っ直ぐ僕を見つめてなにか言いたげに、にゃあと鳴いた。 僕が仕事に行っている間、ムーンは何をしているのか、それはもちろん判らないけれど帰宅すると必ず小さな縁側の真ん中にいた。 『ただいま。今ご飯あげるね。僕もお腹ペコペコだよ』 にゃあ… (お疲れ様) そう言ってくれた気がして、僕は一人で微笑んだ。いつか本当にムーンと話が出来たらなぁ…そんな他愛もない空想をしている自分を自分で笑ってしまったりもした。 ある晩、僕は細やかな夕食をとりワインを飲んでいた。月が綺麗な夜で、何だか部屋の明かりに霞ませるのは勿体ない気がして部屋の電気を消し、縁側のガラス戸を開けて月とムーンを交互に眺めていた。 ムーンは何を考えているのか、真っ直ぐに背中を伸ばし月を見上げていた。 『かぐや姫ならぬ猫姫か?ムーンも月に帰るのかい?まさかね…』 僕は一人で吹き出した。確かに時は後数日で中秋の名月…満月の夜に奇跡が起きるのか? 『ははは…酔ったかな…もう寝ようか?ムーン…戸を閉めるよ。』 にゃあ… 僕を見上げひと鳴きしたムーンは (お月様にお願いしておいたから…) と、微笑んだ気がした。
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