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『何…だったんだ?今の…』
幻にしてはやけにリアルで、だけどやっぱり幻で…
ぼんやりとその場所を眺めていると、珍しくムーンは僕の足に絡み付き、にゃあんと鳴いて僕を見上げた。
僕は屈んでムーンを抱き上げると胸に抱いて頭を撫でた。
『ねぇ、ムーン。僕は頭がおかしくなったのかな?幻が見えたんだ。女の人の…夢で見た人と同じだった。』
(忘れちゃったの?)
『えっ?!』
ムーンは少し悲しそうな瞳で僕を見上げていた。しばし僕らは見つめ合っていたけれど、ムーンが体をよじり腕の中からすり抜け、いつもの場所に落ち着くと、毛繕いを始めた。
『なんの事だろう…』
呟きながら部屋着に着替え、夕飯を準備し始めた。
ムーンにもご飯をあげて、僕もビールを飲みながら、忘れてしまっているらしい何かを思い出そうとしていた。
『はあ…きっと凄く大切な事なんだろうな…忘れてしまっている僕は何だかひどい人間みたいだよな…そう思うだろ?』
ムーンは知らんぷりをして丸くなっているけれど耳はピンとしていて僕が話す事は聞いている。
『ムーン…拗ねてるの?意地悪しないで教えてよ…』
クルリと振り向いたムーンは
(貴方が自分で思い出さなきゃ意味がないじゃない…)
とでも言いたげに、とても淋しそうににゃあんと鳴いた。
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