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『・・子……?!』
翌朝誰かの名前を呼んだ声で驚いて目を覚ますと枕が涙で濡れていた。どんな夢を見ていたのか全然思い出せなかったけれど、切なさと愛しさがごちゃ混ぜになった想いが体全体を包んでいた。
『僕は誰かを愛していたんだ。とても強く…愛しさに身を焦がす程に…』
そう呟くとまた涙が溢れた。
『それなのに、忘れてるんだ。なんてひどい人間だろう…』
にゃあん…
『ムーン…』
(焦らなくてもいいの。私はここにいるから…)
『ありがとう…』
僕は涙を拭うと、頭の奥がジーンと痺れている様な感覚を洗い流す様に顔を洗い仕事に出掛ける準備を始めた。
駅に向かい、電車に揺られながら僕はふと我にかえった。
私はここにいるから…
確かにムーンはそう言った。僕らは出会うべくして出会ったという事なのか?そして、僕が忘れている何かをムーンは覚えている。
ただ、猫という姿であるために伝える事は出来ないし、もしかしたら僕が忘れているせいでムーンは猫という姿でいるしかないのか?
『ははは…』
僕はとんでもない空想に頭を支配されている事に気付いて、一人で唇を歪め苦笑した。
『馬鹿みたいだよな…そんな事あるわけないよ…』
僕は会社に着くと頭をブルンと振って、仕事に没頭した。
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