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そのまま――。
気恥ずかしさを拭えなかったあたしは特に話題に触れる事なく、食事を済ませた。
虎狼も何も言わない、し。
「ご馳走さまでしたっ」
「皿を洗っちゃうから、少し待ってて?」
「あ、手伝うよ」
2人で食事の片付けをして、約束の水族館へ向かうことに。
「月華、乗って」
バイクのヘルメットを渡された。
え?
両手でヘルメットを抱えながら、じっとそれとバイクを見つめた。
中型の機動力のありそうな、カッコいい単車。
薄手のライダースジャケットを羽織った、長身の彼にバイクはとても良く似合っている。
のはいいけど――。
あたし、今日スカート…。
しかもメイクしてきたのに……フルフェイス…?
てっきり電車か何かで行くと思っていたあたしは、呆然と佇む。
移動手段はバイクって言ってくれてれば、迷わずデニムを穿いて来たのに…。
どうしよう、これ。
スカートの裾を握って、虎狼を見れば。
彼は軽快なエンジンを吹かせていて、――準備は万端。
「乗らないの?」
いや、あの、乗りたい事は乗りたいんだけどね…?
いや、はい、乗ります――。
メットを被ったついでに、小さくため息をついた。
…仕方ない。
覚悟を決めてバイクの後ろにまたがった。
「しっかり捕まっていてね」
言われた通りぎゅっと虎狼のお腹の辺りで手を組む。
密着は、ちょっとだけ嬉しい――かも。
緩んだ顔をきゅっと締め直すと、タイミングを見計らったかのように、バイクは緩やかに進み始めた。
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