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バイクを駐輪場に停めた彼は、慣れた動作でメットを脱いだ。
それに倣ってあたしもヘルメットに手を掛ける。
バイクに乗ってるときは、風を受けて全然暑さを感じなかったのに、バイクを降りるともわっとした暑さがまとわりつく。
やっぱり、風で体感温度はかなり変わるなぁ。
「あつーい」
ヘルメットが密着していたせいで、(密着してなきゃ保護の意味はないんだけど)ちょっとだけ額に汗が滲み、おでこに前髪がはりついていた。
うぅ、格好悪い――…。
その前髪を直すため、必死に掻き上げる。
直れ直れ――と整えていると、虎狼があたしに手を伸ばした。
指を差すのはヘルメット。
その手にヘルメットを渡すと、椅子の下をぱかっと開けて、中にしまう。
そんなとこに収納スペースがあるんだ。
何とか定位置に戻した前髪から手を離すと、虎狼があたしに振り向いた。
「後ろ怖くなかった?」
「全然!気持ち良かった」
笑って答えると、虎狼はあたしの髪を優しく撫でてから、顔を覗きこんできた。
相変わらずの、綺麗な顔に心臓が飛び跳ねる。
「あ、月華化粧してたのにフルフェイスのメットなんか被らせてごめんね」
虎狼……メイクに気がついてたんだ。
嬉しい――けど恥ずかしくて素直になれず、可愛くないあたしは、
「……崩れるほど塗ってないよ?」
呟いてから俯いてしまった。
「可愛い」
ふいに振ってきた優しい声と、また髪に触れる指。
その仕草は、とても柔らかい。
「あ、ありがと」
それからワンピースも誉められて顔が真っ赤になる。
「そんなに照れられるとこっちにも伝染しちゃうから」
伝染?
ふいに引っ掛かった単語に顔を上げると、少し…虎狼も照れた様に微笑んだ。
「伝染って?」
聞き返したあたしの髪に軽くキスをして、手を繋いでゆっくりと歩幅を合わせて虎狼は歩き出した。
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