第4話

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  「こ…」  「虎狼?」と名前を呼ぼうとして見上げた時。  ぐいっと手を引っ張られて、一歩前に出た虎狼と水槽の真ん中に立たされる。  え――?  目の前に飛び込んできたのは、虎狼の広い背中。 「宿世君」 「あぁ、本当だ」 「こんなとこで会えるなんて、運命なんじゃないの?」  鼻に掛かったような、甘い猫撫で声。  ざわざわと人が行き交う夏の水族館の中で、彼女たちの声に虎狼が小さく舌打ちしたのが聞こえた。 「先輩方、今日はお揃いで遊びにいらしたんですか?」  聞いたことのない硬いトーンの低い声で、近づいてきた彼女達に話しかける。  虎狼、知り合いなの?  でも、こんな声――聞いたことないよ。  恐る恐る顔を盗み見ると、そこには何だか冷たい微笑みが能面のように貼り付いていた。  あたしに向けてくれるような、心臓を掴まれるような――優しい瞳じゃない。  感情の感じられない、冷たい瞳。  虎狼、どうしたの?  何故だかその瞳が怖くて、身を少し小さく隠した。 「奇遇ね!こんな場所で会うなんて」  会話から察するにどうやら虎狼の先輩らしい。  という事は、あたしの先輩にもあたるのかな?  虎狼は――ずっと聖徳のはずだもんね。 「いえ、1人ではないですけど」 「そうよねぇ、宿世君ほどの人が休日にこんなところに一人だなんて、ありえないわよね」  クスクスっと嫌な感じの笑い声を立てて、真ん中に立っている人が、粘液のようなねっとりした表情で虎狼を観る。  三種三様の個性の強い香水の匂いが混ざって、鼻腔を酷く刺激した。  何だか強い匂いって、――気持ち悪い。  思わず鼻を手で覆ってしまう。 「そのこ、うちの学園の子?」  背の高い人が、目ざとくあたしの事を訊いてくる。 「えぇ、まぁ」  曖昧な返事をしながら、答える彼の声は固い。  それを言い終わるのと同時くらいに、虎狼ごしにあたしへの罵倒の声が聞こえた。 「ぶっ細工」 「まだ楓の方が良かったんじゃなくて?宿世君」  侮蔑の視線が、ビシビシとあたしに降りかかる。  何よ…こいつら。  楓?  そんな人、知らないんだけど。  眉根を寄せて、虎狼の背中から顔を出したい衝動に駆られた。 「先輩方?」  虎狼の声が一層鋭くなる。 *
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