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「よいのですか? あの者を生かしておいて……」
いくつもの瞳が1人の若い男の姿を追う。その中の1人が中心になる人物に小声で囁いた。
「構わん、“アレ”の翼には封印が施してある。もう二度と、“アレ”は空を飛ぶことなど出来んよ」
男が答えた。彼等は皆揃えたかのような純白の大きな翼が背中から生えている……若い男を除いて。
若い男は自ら破滅の道を歩いた。周りの者は男を奇異の目で見つめコソコソ喋る。
「どうしてあんな者が生まれたのか」
「早々に処分すべきだったのに」
「醜い……きっと悪魔の化身なのだ」
若い男はその声を聞いて喉の奥で小さく笑った。そうして最後の一歩まで辿り着き皆の方を振り向いた。
「……兄さん……」
小さく囁く声が若い男に届いた。男は声の主を見ずにふっ、と笑った。
「……何か言い残すことはあるか?」
先ほどの妙齢の男が若い男の前に進む。若い男は自分を見やる周囲をゆっくりと見渡し言った。低いが良く響く美しい声だった。
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