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高かった日が暮れて、辺りは紅から藍に変わろうとしていました。
幼子は自分の来た道をじっと見ていました。
鵺も同じように見ていました。
藍が黒に変わり、白い月が浮かび上がりました。
誰も、来ません。
「父様、母様…」
幼子は衣を握り締めて寂しげに声を洩らしました。
鵺は小さくため息を吐きました。
鵺は分かっていました。
この幼子は捨てられたのだと。
「泣かぬのか?」
鵺は問いました。
「泣きませぬ。父様と母様にご迷惑をかけてしまいます…だから、泣きませぬ」
幼子はそう答えました。
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