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「まあ…そうだけど。」
おそるおそる、つぶやく。
「なにをそんなに警戒してるのさ~。じゃあ早速今日の放課後、橋本君もいこっ!」
満面の笑顔でそんなこと言われても。
いったい何処へ行くのさ、そう聞こうと口を開いた瞬間、午後の授業開始のチャイムが鳴り響いた。なんとタイミングの悪い。
おかげで田村慈は、もうぱっと身を翻して、二つ結びにした亜麻色の髪を揺らしながら自分の席へさっさと帰ってしまった。
携帯を鞄にしまい、代わりに教科書やノートを並べる。ほら席につけ~、と壮年の男性教師が、教室のドアを開けるやいなや、まだ騒がしい生徒達に向かって声をかけた。
ちら、と窓に目をやれば、グラウンドを隔てた向こうにある山々が、近頃日増しに暑くなっていく町に合わせるかのように、艶やかな萌葱色に変わっていた。
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