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汲んだばかりの水で少女は顔を洗う。
早朝の空気が心地良い。しんとした涼やかな空気は、心を落ち着かせると同時に、何かが起こるような気分にさせる。
その時ふと、チカチカ、と何かが光っていることに少女は気付いた。
小さい森とは反対の方向にある、立ち入らずの森からだ。
両親の獣がやって来る小さな森とは違い、深くて暗い森なので、入ってはいけないと昔からきつく言われていた。入って奥まで行ってしまったら、戻ってこれなくなるからと。
だが少女はその光に引き寄せられるように、立ち入らずの森へと歩いて行った。
チカ、チカ。
点滅するように白い小さな光が輝く。
夜明け前の空気が、少女に、実はまだ両親は生きているのではないかと思わせた。
地平線に近い空がうっすらと白み始めている。霞がかる大地。
両親はまだ生きていて、変わらずつがいの獣になって訪れていたのではないか。立ち入らずの森から来るようになったのかもしれない。いつも小さな森ばかりを見ていたから、気付かなかったのかもしれない。
チカ、チカ。
ほら、光っている。私を、呼んでる。
少女は立ち入らずの森へ入り、光の方へ向かった。
だが、そこにいたのは両親でも獣でもなく、子供をさらって売り飛ばす、人さらいだった。
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