少女

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 今思えば、チカチカとした光は、人さらいが光を使って、仲間に何らかのメッセージを送っていたからなのだろう。  鏡とライトを使って、何やらチカチカと繰り返していた男は、突然現れた少女を見て少しぎょっとしたようだったが、すぐににこやかに笑った。  しかし、その濁りきった目と雰囲気で、少女は、この男が自分に害をなす者だと直感した。 「お嬢ちゃん、迷子になったのかな? この森は深いからね。おじさんと一緒に、村の人の所まで行こうね」 にこにこ笑いながら手を差し出す男に、少女は後ずさる。 「怖くないよ。おじさんもあの村に住んでいるんだ。用事があってこの森に来たんだけどね、今から帰るところなんだ。お腹、空かないかい? おじさん、飴を持ってるよ」 嘘だ、と少女は感じた。  朧げな記憶では頼りにならないが、でもこんなに濁った目の男をあの村で見かけたことはない。  村はそんなに豊かではないが、住んでいる人達は基本的にいい人達ばかりだ。  少女の目の前の男の装飾品。あの村に、ペンダントだの鎖のベルトだのをじゃらじゃらつけている男はいない。  そしてうっすらと男から香るものが何か少女にはわからなかったが、とにかく嗅いだことのない臭いだ。なんだか、嫌な臭い。  少女が分からないのも無理はなかった。それは強い酒の臭いと、葉巻の香り、それから昨日寝た女の部屋で焚かれていた香の、残り香だったのだから。
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