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飴はどこだったかな、と男が衣服のポケットを探っている隙に、少女は駆け出した。
大人がなかなか追って来られないような、茂みや木の間を狙って。
「ガキが逃げたぞ、追え! 召喚士のガキだ、他国に売ればがっぽり金が手に入る!」
仲間が何人か森に潜んでいるのだろう。本性を現した男は、そう怒鳴った。
捕まりたくない一心で、少女は駆けた。逃げた。
どれだけ逃げたかわからない。仮に逃げ切ったとしても、少女はこんな深い森から家に戻る道を知らない。
それでも逃げた。
いつしか夜は完全に明け、朝日が射していた。深い森の中を夢中で逃げる少女は気付いていなかったが。
だから森の開けた泉に出た時、少女は眩しさに目を細めた。
それから、泉のほとりでこちらを見ている女性に気付き、少し驚いた。
美しい人だった。
背が高く、凜と伸びた背筋。腰まである長い長い銀色の髪。深い翡翠のような目。朝露のように透き通った白い肌。
少し厚手のゆったりとした衣を身に纏っていたため、身体の線まではよくわからなかったが、おそらく、すらりとした手足をしていることだろう。
……きっと、この泉の女神様なんだ。
少女はぼんやりと見とれていた。逃げることも忘れて。
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