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突然、少女は後ろから髪を引っ張られ、襟首を掴まれた。
あの、嫌な臭いと汗の臭いが鼻につく。
「手間取らせやがってクソガキが」
少女を後ろから捕まえた男が忌ま忌ましそうに言い放ち、唾を地面に吐き捨てた。
それから、泉のほとりでこちらをじっと見ている女にも気付いたらしい。
「こりゃあいい。召喚士のガキに、女神サマか。今日はツイてやがる」
「ただ売っちまうにはもったいねぇぜ、あの女。あんだけの上玉、初めてだ」
いつの間にか、人さらいの仲間と思しき男達が四人ほど集まっていた。
三人の男が、じりじりと女に歩み寄る。
女は悲鳴を上げる様子も、逃げる様子もない。ただこちらをじっと見ている。深い深い、森の色をした瞳で。
女は三方を完全に男達に囲まれていた。
「逃げてっ!」
髪と襟首を掴まれたまま、少女は女に向かって叫んだ。
途端、背後の男が少女の背中を思い切り殴りつける。
ブチブチと音がして、髪が細い束になって抜けた。殴られた痛みと衝撃で息ができないまま、少女は地面にうずくまる。
涙に霞む目で、少女は女の方を見た。
男達が完全に女を捕らえていた。
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