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だが、次の瞬間には、少女も男も、何が起こったか理解できずに口をぽかんと開けていた。
三人の男は確かに女を捕らえていたし、女は指一本動かさなかった。なのに、男は三人とも数メートルも吹き飛ばされ、木に叩きつけられたのだ。
「テメエ、このクソアマ、何しやがった! 何か呪文みてえなもんを唱えやがったな!」
男は叫んで、少女の髪を掴み、無理矢理立ち上がらせる。それから動物をさばく太く鈍色のナイフを腰から抜き、少女の喉に突き付けた。
「何かしてみろ、このクソガキの首をかっ裂くぞ!」
男の隣に立っていた仲間が剣を抜き、女の元へ近寄る。
女の唇が動く。
女性にしては低い声で唱えられるその言葉を、少女ははっきりと聞いた。
「絡め取られ、動くこと叶わず。ギリギリと軋み、力は奪われる。やがて逃げる気力も失うほどに。
……汝の名は、『束縛』」
一瞬だった。
少女の喉元にナイフをあてていた男も、女に剣を向けていた男も、気付けば木に叩き付けられていた。
少女に突き付けられていたナイフが、ぽとん、と地面の草むらに落ちる。
「畜生、何しやがった! くそ、身体が……!」
男の身体は、まるで木に縛り付けられたように動かない。もがこうとする男に、女性が、すい、と顔を近付ける。その深い翠の目に、男は言葉を失う。
女の少し薄い、だが汚れ一つない美しい唇が動いた。
低い声が、吐息と共に漏れる。
「ガル・ベテア、だな。人身売買、強盗…。お前には安くない賞金がかかっている。
成る程、今日はツイている」
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