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それから女は少女の方を向き、「怪我は?」とだけ尋ねた。
少女は勢いよく首を左右に振る。
「そうか、良かった」
そう言って目を細めて笑う女の表情を見て、少女は違和感を覚えた。母親や祖母、村の女の人が見せる笑顔とは何かが違っていたからだ。
――むしろ、あの笑顔は……。
そして少女は、自分が大きな勘違いをしていたことに気付いた。
その人は少女に手を差し延べた。
「立てるか? 近くに私の家がある。落ち着くまでそこで休むといい。うるさいのがその内帰って来るが、害はない。
こいつらを引き渡すために街警備兵を呼ぶから、君の住んでいた所に帰してもらうといい」
その言葉を聞き、少女はぽろぽろと涙を流しながら差し延べられた手を取った。
少女はゴシゴシと乱暴に手で涙を拭うが、涙は止まらない。鳴咽混じりに言うのがやっとだった。
「だれも……いな……っく、いの、ひとり、なの……っ、だから、わたしっ、たすけ……うえぇぇっ……」
少女はその人にしがみつき、声を出して泣き始めた。
その人は少し困った顔でどうするべきかと考えていたようだが、少女の頭を軽く撫でると、小さな声で囁いた。
「とりあえず、私の家へ行こう。私はレスレクシオン。君は?」
「……ティア」
少女は、真っ赤な目をして答えた。大きなその目からは、涙がまだ零れていた。
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