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少女は森の中を、背中まで伸びた栗色の髪をなびかせて走っていた。
足は裸足で泥まみれ。石や枝などで切ったのだろう、所々に血が滲んでいる。
身体も顔も汗まみれで、額に頬に首に、髪がべっとりと張り付いていた。
少女の呼吸は荒く、鼓動は落ち着く暇もない。
駆けて、駆けて、駆けた。
逃げて、逃げて、逃げた。
少女の大きな瞳に、涙が溢れ出す。
視界がぐにゃりと歪み、前が霞んで見えなくなる。
呼吸がさらに不規則になり、咳込みそうになる。
泣くための体力も、今は惜しいのだ。
少女は、汗と泥で汚れた腕で涙を拭う。涙が腕に、筋を描いた。
木の枝が、葉が、地面から伸びる草が、少女の行く手を遮り、少女の剥き出しの腕に足に顔に、ぴしゃりと鞭打つ。
痛みも痒みも今は忘れて、少女は走る。
振り返らない。振り返れない。追っ手はすぐ後ろにまで迫っているだろう。そんなことをしたら、きっと捕まってしまう。
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