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少女は何日も森を見ていたが、獣は現れなかった。
代わりに国王の使者が家へやって来た。
おばあちゃん誰かが来たよ、と祖母に告げたときの、祖母のあの、恐ろしいものを見るかのような、全てを覚悟したような強張った表情を、少女は忘れることができないだろう。
使者は何ごとかを祖母に告げ、その言葉を聞いた祖母は泣き崩れた。
少女は初めて、祖母が大声を上げて泣くのを見た。
使者が何か袋を差し出したが、祖母は頑なに首を横に振り、とうとう受け取ることはなかった。
その袋には、ずっしりとした重さの何かが入っているのだということが、少女にも分かった。おそらく中身は、金貨や宝石なのだろうということも。
そう。
国は戦争に勝った。だが、両親は帰って来なかったのだ。
始めは実感のなかった少女も、何日待っても獣がやって来ないことを知り、両親の死を理解した。
そして、毎日のように森からやって来たあのつがいの獣は、やはり両親だったのだということも。
帰ってくる、と約束したのに。いつでも少女の側にいると約束したのに。
約束は果たされなかった。果たされなかったのだ。
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