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『この世界の王にならないか?』
「はぁあ?」
八雲敬太は帰宅途中の住宅街でスーツ姿の見知らぬ男からいきなり声をかけられた。
男は敬太の目の前に手を差し出して返答を待っていたが、その言葉を理解するのに敬太は数分の時間を必要とした。
「あんた、頭がおかしいんじゃねーの?」
だが、理解は出来てもその内容はあまりにも非現実的であり、変な宗教の勧誘なら他の奴にしろよ、と言いながら敬太は男の横を通りすぎようとする。
『ふむ、このパターンは相手を怒らせてしまうのか』
「おいおっさん、あんた俺に喧嘩を売ってんのか?」
男は顎に手を当てながらふむ、と敬太の顔を見ながら笑う。
そんな男の態度に思わず敬太は足を止め、男に向かってメンチを切る。
『いや、失礼。順を追って説明するべきなのだが、結論を最初に持ってくるとこの世界の住人はどのような反応をするのか知りたくてね。本当に申し訳なかった』
男はまったく動じていないようだったが、自分のした行動の非を認め、やはり理解に苦しむ言い方をしながら、敬太に深々と頭を下げる。
「な、なんだよ。そんなに気にしてねーよ!」
こんな住宅街で大の大人に深々と頭を下げられるなんて思っても見なかったために、敬太は慌てて男を許した。
その言葉を聞いた男はバッと頭を起こし、笑顔で話を続ける。
『ありがとう。では、先ほどの話の続きなのだが・・・』
「ちょっと待った。先に聞きたい事があるんだけど、あんた一体何者なんだ?」
男の話を遮り、敬太はまず男が何者なのかが知りたかった。
宗教関係であればさっさと帰るし、セールスマンであれば何かしらの名刺を出してくるだろうと思っての言葉だったが、男はそれの遥か上をいく言葉を敬太に返してきた。
『そうか、聞かれたら答えなければならない。私はこの世界とは違う世界から来た王様だ』
「はあぁっ!!?」
またしても非現実的な内容の言葉に、敬太は思わず変な顔になる。今度は理解すら出来ない。
敬太はえへん、と年甲斐も無く胸を張る目の前の男に付き合っていいものかどうかを、こめかみに手を当て少し考えるのだった。
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