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「おー、蜂須賀!ちょっとパン買ってこいよ!」
「竜牙おれはジュースな!」
「だぁーっ!何で俺がパシリなんかしないといけないんだよ!?」
少年はそう叫ぶが周りのクラスメートが一斉に答える。
「そりゃお前が『魔法を使えない』落ちこぼれだからだよ!」
「くっ!」
クラスメート全員の言葉の暴力に少し傷つく少年。
この少年の名前は蜂須賀竜牙。
身長は平均より少し高く、体重はそこそこで普通よりも少し引き締まった体つきをしている。
だがこの勇者育成学校では、
生徒ほぼ全員が勇者になることを目指しているこの特殊な学校では、
引き締まった身体などといった特徴はあまり特徴とはいえないかった。
だから少年――竜牙が、他と違う点を上げるとすれば、ぼさぼさに跳ねた珍しい青色の髪と、決定的な欠点。
それは彼が『魔法が使えない』という事だった。
竜牙は何故か人が必ず持っているはずの『魔力』がなく、そのため魔力を使用する『魔法』が全く使えない。
勇者育成学校では魔法を使う授業もあるため、入学時にはそのことで少々トラブルがあった。
だが学校関係者のある者の紹介により、なんとか入学を認められ、こうして約一年間今日までやってきた。
勇者育成学校どころか、人類の落ちこぼれのダメな奴。
それが他人からの常たる竜牙の評価だった。
「だぁーっ!!くそっ!見てろよ!絶対立派な勇者になってやるからな!」
周りからの蔑む様な視線に耐え切れず、竜牙は叫び声を上げて、夢を叫んで自分を鼓舞する。
だが所詮、竜牙は一人勝手に叫んでいるだけである。
結局、多人数には勝てず、竜牙はクラスメートに負けてパン、ジュース……その他諸々をパシられることになった。
「早くいってこいよー!!」
「そうそう、貴重な昼休みは短いんだ!ははは!!」
「くそッ……!!」
クラスメートの嘲る視線と声に負けて教室を出て行く竜牙のその後ろ姿は、勇者からは程遠かった。
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