序章

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昼食時―― 西桜院(サイオウイン)学園の食堂はまだ時間が早いのか然程混雑はしていなかった。 空いている席を見つけ親友の野坂 亮(ノザカ トオル)とともに腰を落ち着ける。 「今日は何食う?」 「んー…」 亮の問掛けに数秒悩んで 「軽食で宜しく」 「そんなんじゃ体力つかねェぞ」 「別に気にしてないし」 「あっそ」 亮はそれだけ云って券売機に向かって歩みを進めた。 汀夜は大きく欠伸をし、テーブルに腕を組んで就寝体制に入る。 期末テストも近く、少々サボっていた汀夜は一夜漬けで教科書の指定範囲を丸々暗記した。 その所為で睡魔が今まさに汀夜を襲おうとしているところだった。 うとうとしてきた瞳で周りを見渡す。 ちらほら学生も増えてきた。 亮はまだ昼飯を何にするか迷っているらしく、眉をしかめて券売機と睨めっこをしている。 「そんなに悩むか?」 汀夜の呟きは、生徒の会話に混じるように消えていった。 いつもの風景。 だが、それは崩れることとなる。 ノイズの走るような音が聴こえた一瞬後、妖しく誰かの声が頭に響いてくる。 『放課後、東棟二階資料室に来なさい』 『ただし、貴方にその勇気があるのなら』 クスクスと嘲りを含む笑いをしているような口調だ。 汀夜は瞬時に相手は女だと判断した。 (意味解んねぇ…) 汀夜は一人そう考えた。 しかし、 『貴方、テレパシアなの?』 「は?」 相手の突然の発言に、驚きは声に出た。 「どうかしたか?」 伏せていた顔をあげる。 亮は昼食の親子丼と少量のパンを乗せたトレイを持ち、顔色を伺うかのように覗き込んでいた。 「いや…何でもない」 小さく首を振って、思考を飛ばす。 しかし思い出すのは先刻の言葉。 『貴方、テレパシアなの?』 そんなことがある訳ない。 僕は平凡な高校生で、ただのノンテレパシアだ。 テレパシアなんかじゃない。 そう断言しても良い。 それでも頭の隅には女の声がはっきりと残っている。 『東棟二階資料室に来なさい』 『ただし、貴方にその勇気があるのなら』 「―――…なぁ、亮」 「どした?」 親子丼を美味しそうに食べる亮に、汀夜は云った。 「今日は寄る所があるから先に寮に戻っていてくれないか?」 「また図書館で勉強か?程々にしとけよ」 「わかってる」 亮、すまない。 これだけは云えないんだ。 下唇を噛み、心のうちで呟いた。 そして放課後に東棟二階資料室に行くことを決意した。 僕は テレパシアなんかじゃない 絶対に…image=47168324.jpg
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