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屋敷に帰るなり、
一寸は若君の部屋へ連れて行かれ、
そしていきなり押し倒されました。
「――くそっ…!
あの鬼にどこを触られたんだ!?」
鬼に引き裂かれた着物を見て、
若君は何故か凄く悔しそうな
悲しそうな顔をしました。
「私は平気です、若様。
――でも…
若様がせっかく
直して下さった着物が…」
「着物なんかまた直せばいい!!」
若君が怒鳴ります。
――そして…
続けて小さな声で言いました。
「――お前が…
こうなってたかもしれないんだぞ…
着物と違って…
お前は取り返しが付かないんだ…」
珍しく若君が少しだけ震えていて、
弱々しくて、何だかとても
愛おしくなりました。
「鬼に触られた時…
若様と同じ行為な筈ですのに…
とても嫌で気持ち悪かったです」
「あんなヤツと俺を一緒にするな」
「――私も…
若様が好きです」
こんなめに合って、
やっと自覚するなんて。
鬼に襲われた事なんか
簡単に忘れてしまえるくらい、
若君が助けてくれた事が嬉しい。
――あの時…
もう少しだけ
留まる決心をして良かったと、
一寸は心から思いました。
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