第一章

11/15
252人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
     ゆらゆらと優しく伝わるこの震動を知っている。  頬を擽る髪も、触れている所から感じる温さも。 「見てみなさい。一等星だ。」  流れる涙を拭って見上げれば、闇に煌めく一つの星。  全てを覆うような黒に負けずと輝く白銀に感嘆の声が零れる。 「泣き虫にも見えたかな。」 「もう泣いてなどおりません!」  突然強気になった幼い自分を笑うその首に抱き付く。 「……兄上。」  夢の中だと判っていても、その温もりは確かで、懐しくて哀しくなった。   「起きたのか?」  朧な意識の中、未だ記憶に新しい声が耳元がした。  重たい頭を擡げて声の主を見て一気に覚醒する。 「藤堂先生!これは、申し訳ありません!」  何故か藤堂に背負われていた三郎は慌てて飛び退いた。  まさか夢ではなく、本当に背負われていたとは。 「そろそろ近藤さんが帰ってくるからな。お前を置いてくわけには行かないし。」 「すみません、酒を飲むのは久方ぶりで……。」  酔っていつの間にか眠ってしまっていたらしい。  大分更けてしまったのか、辺りに人は見当たらず静かであった。  藤堂の後を追いながら、先程の夢を思い出す。  あんな穏やかな夢は何年も見ていなかった。  幼き頃の幸福な思い出に会えて、嬉しくも寂しくもあった。 「聞いてもいいか。」  不意に立ち止まった藤堂は、まるで明日の天気を尋ねるような調子で問うた。 「馬越三郎、お前は女子なのか。」  
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!