遺すもの。遺されるもの。

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なんだか甘い香りがした。 目を閉じていたからか、それとも眠ってしまっていたのか、視界は真っ暗で目が開きにくい。 ただ、覚えのある香りだけはわかる。 「初花さん…?」 かすれてうまく話せないが、空気のような声がでた。 吐血した血は吸引されたのだろう。 若干楽になった。 ただ酷く寒い。 目を開けると、泣きそうな顔の初花が見えた。 倒れた時の私はいつも散々な状態だから、きっとビックリしてしまったのだろう。 今まで倒れた時なんて見せたことなかったから。 痛いって伝えたら、貴女は更に泣きそうな顔になった。 いつもの何倍も辛そうに微笑んだ。 そんな顔の貴女は見たくないの。 いつもみたいに笑って。 私はもう目を開けることがないかもしれない。 だからこそ、貴女の笑顔を見ていたいの。 どんな時に、貴女は笑ってくれたかしら。 どんな言葉を言えば、貴女は笑ってくれたかしら。 頭がうまく働かないけど、貴女には笑顔でいて欲しいから。 いつも言うこときかない私の体。 最後ぐらいは私の好きにさせてちょうだい。 初花の笑顔が戻るような、そんな言葉を口にしたいの。
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