黒髪の悪魔

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「櫻井」 名前を呼ばれ、俺は書類から目線を上げた。  上司がこちらを見ている。  つまり、そっちの机まで来いということ。  日本に来てから、妙なしきたりや作法にはだいぶ慣れたつもりだが、公務員のこういった態度は慣れない。 この直属の上司も、人間的には決して悪い人物ではない。  俺のような人間にも、態度を変えることなく接している。  外人扱いするでもなく、特別扱いするでもなく、部下の一人として平等に見てくれる貴重な人間だ。 理由を告げず部下を呼びつけたりする、多少失礼ではないかと思うような態度も、日本の独特な習慣だと思えばだんだん気にならなくなった。
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